【報告】H25.7.27~28愛媛県医師会 医療コンフリクトマネジメント研修会に参加して

「コンフリクト」という響きから、私の頭にはまず、医療訴訟や臨床現場のトラブルに対する対応係、が浮かびました。日々の診療で手いっぱいで余裕のない私に、そんな大変な事は…、というのが第一印象でした。その上テキストは厚みが20mmもある分厚い本で、見慣れないカタカナ用語がいっぱいで、気おくれを感じました。

会の初めに、テキストの著者で法律家の和田仁孝先生のお話がありました。先生から「医療メディエーション」という概念の経緯を伺い、私は、とても合点がいきました。医療の高度化・複雑化、医療におけるパターナリズムの崩壊、医師不足等から、医師―患者関係は激変しました。日本でも医療訴訟が急増し、医療崩壊という言葉も広がりました。和田先生がメディエーションに関わられるようになったきっかけが、医療訴訟の当事者であった患者家族の一言、「訴訟することで、真実がわかって医療者側から詳しい話がきけると思っていた。しかし、裁判をしても、それは叶わなかった」というものであったそうです。裁判とは、争点について勝つか負けるかを争うものであって、真実を追求するものではない、という先生のお話も、私には新鮮でした。

本来、医療者と患者さんは、病気という共通の対象に向かって、同じ方向を向いているものです。相対して相争う間柄ではありません。また、病院に来る方々は、皆、心身の不調・不安を抱えているわけですから、コミュニケーションに心を砕く必要があることは、医療者であれば自ずと心得ていて、皆、無意識にそうしていると思います。しかし、日常些細な行き違いが生じることも、よく経験されることです。

研修会では、中立な仲介者(メディエーター)を介して、医療者と患者が対話を深め解決を目指す、というロールプレイをいくつか行いました。日ごろから、自分の中にこの仲介者の視点があると、日常診療もスムーズになると思いました。仲介者の立場は、話者への共感、感情の共有ということで、思いやりと言い換えることもできるかと思います。

また、「相談窓口業務」においても、自分を中立な立場と位置付けることで、対応する担当者の心理的負担が軽減することも、メリットと思われます。

ロールプレイでは、みなさん役になりきって、名演技を披露されました。最後の死亡事例の患者さん家族役では、感極まって流涙される方も続出し、圧巻でした。2日間の研修は、いろんな施設のいろんな立場の方々とお話しできる、よい機会でした。

医療メディエーションを利用し、医療コンフリクトマネジメントを行う訓練は、臨床において日ごろ無意識にしていることを、言語化・理論化して再認識するよい機会であったと思います。ご尽力いただいた方々に深く御礼申し上げます。

松山赤十字病院 内科(糖尿病・代謝内分泌)近藤しおり