喉頭(こうとう)はおおよそネクタイの結び目の高さ、“のどぼとけ”のところの軟骨の枠組みで囲まれた部分であり、気道(呼吸道)と食道との分岐部にあたる部位の解剖学的名称です。そして、そのほぼ中央には声帯という左右一対の筋肉のヒダがあります。
喉頭の機能は(1)呼吸をするときに左右の声帯が開き、酸素が口、鼻から肺へ到達する気道としての機能(2)嚥下(えんげ、飲食物を飲み込む)時には声門を閉鎖し、食物の気管への誤入を防ぐ機能(3)声門(左右の声帯の間の空間)を閉じ、振動することで発声を行う機能―以上の三つが考えられています。したがって喉頭がんの症状は、他の喉頭の病気(例えば炎症、良性腫瘍)でもそうですが、これらの機能が障害された形としてあらわれます。
喉頭がんの場合、その発生部位により症状が異なります。声門に生じた場合、嗄声(させい、かすれ声)はほぼ100%出現します。この場合は非常に早期でも症状が出ますので、早期がんとして見つかることが多いのですが、がんが上部に生じた場合は嗄声は約50%、その他に咳や痰、時に嚥下痛があります。
しかし、何となくのどがおかしい、気になるなどの漠然とした異常感程度のことも多く、何となく気にはなりながら病院に行くのが遅れがちになり、早期発見が遅れることがあります。がんが声門よい下部に生じた場合は嗄声のほかに比較的早期に呼吸異常が出現する場合があります。
喉頭がんの原因は遺伝、ビタミンA欠乏、音声の酷使などもありますが、喫煙との関連が非常に強く、この病気の97%は喫煙者であると言われており、愛煙家には非常に耳の痛い病気であるといえます。ブリンクマン指数(一日喫煙数X年数)が五百(例えば一日二十本、二十五年間喫煙)を超えたスモーカーは要注意と言われています。
喉頭がんは喫煙と密接に関係のあるせいか、男性に圧倒的に多く、男性十に対し女性一の割合で起こると言われています。ところが、最近では女性スモーカーが増加しており、その比率は縮まってきているとも考えられています。さらには直接喫煙しなくても副流煙を間接的に吸う(受動喫煙)こともよくないといわれております。この病気に関しては、愛煙家は自分ばかりでなく、周囲の人からも白い目で見られるなど、まことに肩身の狭い思いをすることになります。
喉頭がん検診は耳鼻咽喉科外来で簡単にできます。検査は熟練した耳鼻咽喉科専門医なら、口の中に小さな鏡を入れて喉頭を見るだけで、痛みも不快も感じることなくできます(間接喉頭鏡検査)。約四分の三の人はこれで喉頭深部を十分細部まで見ることができ、のどの反射が強い人、喉頭の狭い人など残りの四分の一の人には直径数ミリの細いファイバースコープを使用して見ます。専門医であれば診断の大半はこれらの検査でできますが、その他に、場合によりレントゲン、CTなどの画像検査や音声学的検査が行われます。
これらの検査でがんの疑いがある場合、治療に結びつく最終的な診断は疑わしい所の組織を一部取って顕微鏡検査にかけます(組織検査)。
喉頭がんの治療ですが、手術、放射線治療、化学療法、免疫療法などがあります。その選択はがんがどの時期で発見されるかで決まります。例えば、早期のものですと顕微鏡下でレーザーメスで切るだけですむこともありますし、逆に進行がんであれば、喉頭を全部取らねばならない場合もあります。
喉頭がんの治療の進歩には目覚しいものがあり、治癒率は著しく向上しています。早期発見ができれば生命への危険性のないことは言うに及ばず、喉頭の機能を犠牲にすることなく治癒せしめることができます。したがって、嗄声やのどの異常感などでお悩みの方は、一度、耳鼻咽喉科専門医を訪れるのが良いと言えるでしょう。 (松本 康) |