舌や口腔が酸っぱく感じる。今までの味と違った味がする。料理の味が分かりにくい。このような訴えは、いずれも味覚障害の症状です。味覚障害といっても、その訴えは多様であり、(1)味全体(甘味、塩味、酸味、苦味など)が低下している(2)特定の味だけが分かりにくい(3)口内に何もないのに苦味や酸味がしている(4)飲食物本来の味がせず、別の味に感じる(5)嗅覚が低下しているために、味覚が低下したように感じるーなどがあります。
原因は多岐にわたっていますが、特に重要なのは亜鉛欠乏症、特発性、薬剤性の味覚障害です。
亜鉛欠乏性味覚障害は、血液中の亜鉛が低下しているために生じる味覚異常です。酵素、ビタミン、ホルモンの働きになくてはならない必須微量元素として、鉄、亜鉛、銅、クロム、コバルト、セレン、マンガン、モリブデン、ヨウ素などがあります。その中でも亜鉛は酵素の活性中心として働き、特に細胞の若返りのために必須の元素です。
味を感じるのは、味覚の受容器である味蕾(みらい)という味細胞群であり、この中に亜鉛が豊富に含まれています。血液中の亜鉛が少なくなると、味蕾細胞に異常を起こし、味覚に障害が現れるようになります。
特発性(原因不明)味覚障害は、血液中の亜鉛が正常でありながら味覚障害を起こす場合です。亜鉛が正常範囲であっても、大部分は食事性潜在性亜鉛欠乏症であると考えられ、日ごろの食事からの摂取量の不足が原因であるといわれています。
亜鉛の一日必要摂取量は十五ミリグラムであり、妊娠時には二十ミリグラム、幼児は新陳代謝が活発なために五ミリグラム取らなければなりません。日本人の一般的な献立による摂取量は平均九ミリグラムであり、若い女性の摂取量はわずか六・五ミリグラムといわれています。
さらに加工食品の添加物には亜鉛の吸収を妨げたり、体内の亜鉛を排泄してしまう化合物が使用されていることも亜鉛不足を助長させます。
薬剤性味覚障害は、薬剤の副作用による味覚異常です。利尿剤、降圧剤、抗うつ剤、抗生剤、解熱鎮痛剤など副作用を持つ薬剤は数多くあります。副作用の作用機序は不明な場合がほとんどですが、なかには亜鉛を低下させる働きがあると報告されている薬もあります。高齢者は複数の成人病で種々の投薬を受けていることが多いため、壮年者と比較すると有意に薬剤性味覚障害が多くなっています。
そのほかにも、肝不全、腎不全、胃腸切除手術後、甲状腺疾患、高血圧症、糖尿病、貧血症などの全身疾患に伴う場合や、舌炎、舌苔(ぜったい)、軟口蓋炎、などの口腔内疾患、ビタミンA・B2欠乏症、中耳炎手術後、放射線治療後なども原因となります。
治療は基本的には原因疾患の治療であり、亜鉛欠乏が原因なら亜鉛剤の内服や食事療法です。亜鉛を豊富に含む飲食物として、カキ(貝類)、カニ、干しエビ、小麦はい芽、ゴマ、干しシイタケ、肉類、抹茶などがあります。亜鉛を低下させるような加工食品をできる限り避けることも予防治療になります。薬剤の副作用が原因なら、可能な範囲で被疑薬の休止や変更も必要です。そのほか、数多くの原因があり、治療法もそれぞれ異なる疾患ですので、まず専門医を受診し原因を明らかにすることが大切です。 (長山英隆)
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