日本耳鼻咽喉科学会愛媛県地方部会 愛媛県耳鼻咽喉科医会

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耳鳴り - 苦痛を軽減させることを目標に -

高齢化とストレス社会を背景に、耳鳴りを訴える患者さんは増加しています。昔から、「耳鳴りは治らない」という先入観がありましたが、研究が進み、今では決して治らないものではなくなってきています。

ほとんどの耳鳴りは、外界から入ってくる音(エネルギーを持つ音波)がない状態で音が聞こえる、つまり患者さんの脳が音として感じるので、他人にはわからないものです。また、健康な人でも音の全くない部屋に入ると、90%もの人が“キーン”や“シーン”など何らかの音を感じますが、これは生理的な現象で、異常ではありません。日常生活環境では自覚されない耳鳴りでも、いろいろな条件によって脳が過敏になり耳鳴りを危険な音だと意識して注意を向けてしまうと、大脳辺縁系という場所が刺激されて不安やいらだちが生じて不眠になり、さらには動悸などの自律神経症状にもつながるという「耳鳴りの悪循環」が成立します。この悪循環に入ってしまうと、なかなか抜け出せなくなり、症状が長期化してしまうのです。

ここからは、最も多い「慢性的に持続する耳鳴り」について述べます。まず “耳鳴りそのものをなくす”のではなく、“耳鳴りによって生じている苦痛を軽減させる”ことを患者さんと医療者の双方が治療の目標とすることが重要な第一歩です。そして、耳鳴りがどのようにして発生し、悪化していくのかのメカニズムを丁寧に説明してもらいましょう。悪化させる要因を具体的に理解すれば、それだけで耳鳴りが軽減していくこともあります。次に聴力検査、CTやMRI検査などを行い、異常の有無を診断します。難聴がある患者さんでは、補聴器を使用することで耳鳴りが軽減することが多いです。検査で問題のない場合には音響療法と呼ばれる治療が有効です。簡単に言うと、耳鳴りより少し小さめの音を流すことにより脳が順化する(音があるのに、その音を認識しないようになる)ように導くのです。ご家庭でできる方法では、ラジオのノイズや、波の音やせせらぎの音が録音されたCDを流すなどがあります。また、耳鳴りが気にならないような環境を工夫し、身体活動(散歩・家事・体操・朗読・歌唱など)を行うことも有効です。これらの治療に薬物療法を上手に組み合わせると良いと考えます。ただし、安定剤は使いすぎると副作用や依存症が懸念されますので注意が必要です。また、不安や抑うつ傾向が強い場合には、心療内科の先生に相談される必要があります。

耳鳴りの原因は多彩で、難聴やストレス、時には早急に治療を要するような頭蓋内の病気などもあります。治らないものだと諦める前に、まずは耳鼻科で診察、検査を受けて治療法の選択を行うことをお勧めします。

(松山市民病院耳鼻咽喉科  相原 驤黶j

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