マスコミ時評
〜愛媛新聞メディアのページより転載〜

混合診療 〜深刻な弊害報じず追認〜(新野 正治)
 

 保険がきく診療ときかない診療(自費)を合わせて受けるのが「混合診療」である。小泉首相が十月の所信表明演説で解禁方針を打ち出して以来、医療関係団体などは反対運動を全国各地で展開している。しかし、この注視される混合診療の是非について、首をかしげたくなるような報道があった。

 政府は混合診療により患者さんの医療サ-ビスの選択枝が増えるとし、一部のマスコミは追認し一面的ともいえるニュースを流している。この報道姿勢は理解不足に起因すると思われる。

 混合診療が解禁されれば、有効性や安全性が確立されていない医療が拡大し、患者の不当な負担が増大する。また、本来ならば保険適用されるべき医療の新技術が、保険外診療のままで一部の人しか享受できなくなり、国民間に不平等が生じる。

 公的医療保険を補うため民間保険の参入が増加、公的保険は縮小し形骸化され、国民皆保険制度は崩壊することになる。結果として医療費全体の増大を引き起こす。つまり、保険財政を立て直すためと称し医療費を増大させる。本末転倒である。

 混合診療解禁を提言した政府の規制改革・民間開放推進会議で、将来は風邪などの軽症な病気は公的保険より外すとの意見が堂々と出た。ほとんどの病気は軽症で始まる。重症になってしまってからでは身体的、時間的、金銭的にも影響が多い。国民が納得するとは思えない。こういうことを報道しないマスコミは、結果的に混合診療を容認したのと同じことになる。

 政府が目標とする米国では、民間医療保険会社の医療支配とも言える状態になっている。民間保険会社は利潤追求が究極の目的であるため、加入している保険レベルにより検査、治療に制限が加えられるほか、加入自体が断られる場合がある。この医療体制を立て直す命題を与えられたヒラリー女史は、皮肉にもその理想像として現在の日本の保険制度を挙げた。

 ただ日本の保険制度には、不合理な部分があり、それが混合診療導入の理由とされている。例えば、先進医療が保険適用されるまでに時間がかかり過ぎることは、その一つである。

 先進医療が医学的に有効かつ安全かという検証期間の短縮はもちろん必要だが、特定の疾患について保険外診療の併用を認めている「特定療養制度」を適応拡充すれば対応できる。この制度は高度先進医療が一般化し、保険適用されるまでの経過措置である。この制度をやめて混合診療を認めると、医療の進歩による新技術には保険適用の道が閉ざされてしまう。

 改革と言うのだから良い事に違いないとの先入観に惑わされず、かつ将来、国民皆保険制度の崩壊への道をたどる禍根を残さないために、マスコミは医療・保険制度の根幹にかかわる真の混合診療の意味を理解した上での報道が必要となる。さすれば公器としての報道機関から発せられる論調はおのずと明白である。

(松山市医師会理事)