マスコミ時評
〜愛媛新聞メディアのページより転載〜

子どもと事故 〜防止へ原因掘り下げて〜(新野 正治)
 

 東京・六本木ヒルズで自動回転扉に男児が挟まれ死亡した事故から、半年が経過した。発生当時は連日、この痛ましい事故が報道されたが、あっという間に世間の話題から遠ざかってしまった感がある。

 今回は安全対策の不備と扉の構造的な欠陥が一因とされ、警視庁は業務上過失致死容疑で捜査を行い、ヒルズの運営会社と扉の製造会社双方の幹部について、刑事責任が問えるか詰めの捜査を進めている。

 企業だけを責め立てて、通常は一件落着となるが、それで本当に終了といってよいのだろうか。事故防止に関する根本的な問題が存在すると思うが、この点を掘り下げた報道はほとんどみられなかった。

 子どもの事故は珍しいものではない。わが国の一歳から十九歳までの死因は一九六〇年以降、それぞれの年齢で不慮の事故が第一位である。こどもの健康にとって最大の障害は病気ではなく、不慮の事故である。この最も基礎となる事実が読者に認識されなかったため、報道自体が上滑りの感があった。

 欧米では事故を重要な健康障害問題としてとらえ、多額の費用を投入し研究している。事故の種類、発生頻度、子どもの年齢などは毎年ほとんど同じで地域差はない。一度発生すると、続いて同様の事故が生じることも知られている。

 欧米には事故サーベイランス(監視)システムがあり、事故例を収集し、解析することにより科学的に予防活動を行っている。しかし、わが国ではシステム自体が存在せず、予防対策は全く行われていないといっても過言ではない。 また、子どもの事故は本人に予防知識がないため、保護者の注意義務が問題となる場合が多い。予防に関して、以前は「子どもの事故は親の責任」「親が不注意だから事故が起きる」といわれた。

 「気を付けましょう。子どもから目を離さないで」という呼び掛けは有効性が疑わしい。予防には、保護者が実行可能で、かつ科学的に有効とされる対策を講じることが重要である。要は「自分で自分(子ども)の身を守ること」であるが、これを押し進めて行くと「被害者を責める」ととられる可能性がある。このためかマスコミが親の役割に触れることはまずない。

 少子化がいわれて久しい。出生率の上昇がすぐには望めない現状では、子どもを健全に育成すること、すなわち死因第一位である不慮の事故を減少させることが一段と大切となってくる。
 ただし、論点が責任追及に傾き、原因究明に結びつく根本的な問題に触れないマスコミが、解決策を提示できるとは思えない。

(松山市医師会理事)