マスコミ時評
〜愛媛新聞メディアのページより転載〜

麻疹の「輸出国」日本予防接種 〜有効性啓発を〜(新野 正治)
 

 わが国では、麻疹(ましん=はしか)に毎年十?二十万人がかかり、約二十人が死亡する。「子どもが一度はかかるお厄」とのんびり言えない病気だ。最近は学生、成人における麻疹の増加も問題になってきた。しかし、これらについて時に報道されるにもかかわらず、最も有効な手段である予防接種については市民に理解される報道となっているとは言い難い。

 確かに、予防接種の重い副作用とみられる症状は数万人に一人の割合で現れるが、接種を受けずに麻疹に罹る危険性の方がはるかに高い。このことは、科学的事実としては既に明白である。

 問題は接種率と接種方法である。麻疹の発生を抑えるためには国民のoェ%以上の接種率が求められるが、日本では%前後で推移し、先進国の中では非常に低率である。その原因は、予防接種に対する嫌悪感や恐怖感から生じるものはわずかで、ほとんどは単に「接種機会を逃した」ことによる。

 接種方法として、世界保健機関(WHO)は免疫力低下の面から二回接種を勧告しているが、先進国で採用していないのは日本だけである。今回やっと、わが国でも厚生労働省が風疹との混合ワクチンとして二回接種にする方針を固めたとの報道があった(朝日新聞八月二十一日付)。それでも早くて来年末からであり、早期実施が待たれる。

 WHOは麻疹制圧のレベルについて世界二百二十八カ国を三段階に分類している。ほとんど排除できている国は百十三カ国、ほぼ流行を抑えた国は二十六カ国、日本は発生・死亡の減少を目指す最低レベルの八十九カ国に含まれる。 例えば米国では年間三十?四十人程度の発生数でしかない。しかも、このほとんどは海外から持ち込まれ、日本は主要な「輸出国」として非難を浴びている。

 麻疹制圧には、行政の積極的姿勢と社会的認識の高まりが必要だ。具体的には、高い接種率の維持、二回接種、一歳半、三歳児検診および入園・入学時における未接種者のチェック、一歳未満児への接種、何よりも罹患(りかん)しやすい一歳児早期の接種率を高めることが大切である。

 昨シーズンは行政とマスコミがインフルエンザワクチンの有効性を連日伝え、接種希望者が医療機関に殺到し、ワクチンが不足する原因の一つとなった。麻疹に関しても「接種機会を逃さない」よう有用性を常に啓発し、予防接種の利点・欠点を含めた正しい情報を提供すれば、市民に予防接種への理解が得られ接種率の向上につながる。この点、マスコミの力は非常に大きいと言える。 新型肺炎(SARS)や西ナイル熱など海外から輸入される病気の報道に対して読者の関心は高いが、日本が麻疹の輸出国として諸外国にやゆされていることは、時に報道されても読者にインパクトがない。読者自らが加害者側に立っていることが分かりづらいためだろう。マスコミはしっかりとした認識の下で報道する必要があると思う。

(松山市医師会理事)