マスコミ時評
〜愛媛新聞メディアのページより転載〜

子どもとメディア 〜映像漬け抜ける方法を〜(新野 正治)

 「子どもとメディア」の問題について、全国の小児科医師で組織する日本小児科医会と日本小児科学会はこのほど、「二歳までのテレビやビデオ視聴は控えましょう」との提言をそれぞれ発表した。メディアに関する内容であったため、朝日、読売、毎日など各新聞で取り上げられた。
 同学会が生後十七?十九カ月の幼児千九百人の親を対象に行ったアンケートでは、テレビを四時間以上見る子どもは、四時間未満の子どもに比べて意味のある言葉(有意語)の発現が遅れる率が一・三倍高かった。

 親の声掛けがなく、テレビからの一方的な刺激だけだと、発語やその後の会話の進歩につながらないことは以前より指摘されている。だがアンケートによると、逆に言葉、会話の練習のためと考え、テレビを視聴させている親さえいた。

 毎日長時間テレビを見ていると、言葉の遅れだけでなく「視線を合わせない」「人に関心を持たない」「呼び掛けても反応しない」「無表情」など、対人関係の障害を発症するケースがかなりある。このような症状が出ると、回復するには随分な時間がかかるし、回復不能な例もある。

 もちろん、テレビにも利点はある。映像、音声に合わせて親子で一緒に歌ったり、踊ったり、コミュニケーションのきっかけになる。

 問題があるとすれば一歳や三歳でなく、なぜ二歳なのかということである。これは米国小児科学会が一九九九年に「二歳以下の乳幼児にはテレビを見せないよう」勧告したことを根拠にしている。言語発達などを考えれば二歳という年齢が出てきても不思議ではないが、個人差もあり、かつ生活環境、国民性などが異なる日本で通用するかどうか断定できない。

 また日本小児科医会と日本小児科学会の提言の中で、メディアへの一日の接触時間を二歳以降、二時間以内(うちテレビゲーム三十分)としたことは、明白な理論的統計的根拠(エビデンス)に乏しく、その点が紙上では触れられていない。

 ただし、逆に二歳までの子どもにテレビを見せて何が悪いのかという立場に立てば、見せる必要性とメリットを証明する必要が出てくるが、こちらの方がより難しい。

 酒、たばこと異なり、テレビからの刺激は年齢、分量の制限がないまま子どもに与えられている。この映像漬けから抜け出す方法の一つとしてノーテレビデー運動が五年前から、各自治会の呼び掛けで行われている。今回の提言の趣旨とも合致するし、浸透していってほしいものだ。

 以前しばしば耳にした「公園デビュー」という言葉を最近聞かなくなった。子どもを外に出して公園で遊ばさせず、家でテレビを見させているためとみられる。

 核家族化が進んで幼児の面倒を見る人が少なくなったり、遊ばせ方が分からない親が増えたり、遊ばせる場所が減ったほか、親が多忙を理由に自分の時間をつくるためテレビに子どもを任せてしまう。こんなところにも、少子化の影響が出てきている。

(松山市医師会理事)