マスコミ時評
〜愛媛新聞メディアのページ(2004年5月3日)より転載〜

小児病棟閉鎖(新野 正治)
今後の対応 継続取材を

 普段注目されない話題を取り上げて報道することは読者層を限定することになり、紙面に載せることには勇気がいると思われる。その一つとして愛媛新聞に三月八日より六回にわたって書かれた特集「病弱児に学びを・えひめ・小児病棟閉鎖の波紋」があった。

 国立療養所愛媛病院(温泉郡重信町)は小児病棟を閉鎖し、四月から小児慢性疾患患児や重度心身障害児を対象とする小児医療から手を引くことになった。このことに関する記事である。地味な話題であるが、紙面に取り上げたことに賛辞を贈りたい。全体的に分かりやすい内容であり、最終回まで抵抗なく読むことができた。

 最も注目していたことは、これからどうするかということである。愛媛病院で入院加療を受けられなくなった子どもたちは、どうすればよいのか。またはどうなっていくのか。今後、同様の子どもはどうすればよいのかである。このことについては、最終回でのみ少々触れているが、もっと深く掘り下げてほしかった。

 今回は取りあえず、行き場の失った子どもを愛媛大病院小児科病棟内で受け入れることになったが、あくまで緊急避難的措置であり、高度先進医療の担い手である大学病院が受け入れる態勢を継続していけるとは考え難い。

 記事中、愛媛大教育学部の長尾秀夫教授が「医療と教育の両方を受けられる場」として県が整備を進めている「子ども療育センター(仮称)」内に病弱児を対象とした病床を設置することを提案している。センターは現在の肢体不自由児施設「愛媛整肢療護園」(松山市)を機能拡充して開設する。同施設には四月から優秀な小児科、小児神経科医師計二人が常勤するようになった。この人材を利用しない手はない。

 対して、行政はセンターの対象を肢体不自由児のみとしている。こだわらざるをえない理由は記載されていない。国の補助金の使途で判断しているとは思いたくはないが、費用対効果を考えるとあながち非難できない。

 ただ、センターの一部を利用して病弱児のケアを保険で行えば、人材利用や費用の問題は解決されるし、現に他県では既に行われている。このことは記事で触れられていない。

 「子どもたちの教育をどのように保障していくか、医療と教育の在り方が問われている」と最終回に書かれている。しかし取材先は医療者ないし行政であり、もう一方の当事者である県内の教育現場の声が記事にはなかった。教育関係者はその立場上、取材に応じること自体、困難な場合があると思われるが、人名はともかく、代表的な意見だけでも記事にすべきではなかっただろうか。

 今後の継続的な取材に声援を送る意味で、あえて、結論部分にも注文を付けたい。対象となる病弱児を県外に移るように指導するなら別であるが、県内で処遇しようとするのなら、より広く県民にいろいろな意見を求めることが重要であるという点をもっと強調していれば、現場関係者のみならず一般読者のさらなる共感を得られたと思う。

(松山市医師会理事)