マスコミ時評
〜愛媛新聞メディアのページ(2004年3月29日)より転載〜

コンビニ受診(新野 正治)
言葉の厳格な使用を

 松山市で小児救急の受け入れがほぼ二十四時間体制で可能になってから約二年が経過した。この間、急患医療センターも新築移転されハード、ソフトの両面から患者さんにとって安心して急な病気に対処できるようになった。

 小児救急に関して昨今よく用いられる言葉として「コンビニ受診」がある。コンビニエンスストアは二十四時間いつでも開店していて気軽で便利だから、コンビニ受診も「いつでも便利に受診できること」と受け取る人がいるかもしれない。だが医学界をはじめ、ネガティブな意味で使うのが普通だ。

 コンビニ受診とは例えば、午前三時に「元気で食欲もありますが、二週間前より頭髪に白いものが見えます。フケですか、シラミですか」などと来られる場合のことだ。いわば非常識な受診を指す。

 愛媛新聞の「取材最前線」(二〇〇三年四月三日)で「コンビニ受診」と題した記事が掲載された。

 記事は「医師の言う『救急』と親の思う『救急』にはズレがある」としたうえで、「広い意味での子育て支援が(小児医療に)求められている」、と結ばれている。
 本当に医師と親の間に「救急に関する認識のズレ」があるなら問題だ。
 記事では「親の思う救急」を次のように説明している。
「少子化や核家族で、子育て経験の少ない親たちの育児不安は想像以上に深刻だ。親は、少しの熱でも心配になる。泣き止まない、吐いたなど、ちょっとしたことでパニックにもなる」

 これでは、医師が考える救急と何らズレはない。医療者側は親の不安を取り除き、安心して子育てをしてもらうことは大切なことだと十分認識しているし、特に救急に関しては行政とともに格別に気を使っている。

  文末近くに「県内には『コンビニ受診』に耐えうるだけの小児医療機関はないのが現状」という記述がある。

  ここで「ズレ」の正体が見える。非常識な受診に耐える体制が必要だ、という主張に読めてしまう。親が欲している「きめ細かな医療側の対応」を、コンビニ受診と混同しているのではないか。

  医師はコンビニ受診を拒否できない。一般常識に照らして少々疑問符が付く受診であっても、親が「救急」と言うなら応対する。しかしその分、重症の方の処置が遅れてしまう可能性があり、本当の意味で「コンビニエンス」な小児診療からは遠ざかる。

 子育てにおける小児医療の役割増加を期待される主張は否定するものではないし、むしろ肯定される。だが言葉の使用法は厳格であるべきで、特に新聞紙上においてはその影響力が大きく、載せるならば意味をしっかり理解した上で使う必要があると思う。

(松山市医師会理事)