マスコミ時評
〜愛媛新聞メディアのページより転載〜

『日本の医療体制』 〜過労働の実態 理解を〜(新野 正治)
 

  わが国では、国民皆保険制度のもと、誰もが公平に必要な医療を受けることができる。世界保健機構(WHO)は、高い医療水準と低コストの日本の医療体制を、世界一としている。WHO発行のザ・ワールド・ヘルス・レポート(二〇〇三年版)も、巻頭一行目より日本の医療制度の素晴らしさを記載している。残念ながら、このことを国内マスコミはほとんど報道しない。

 海外での高評価にもかかわらず、国民の医療に対する不安・不満は少なくない。〇四年一月の読売新聞調査では、医療に対する満足度は日本では三六%、別の調査では米国の満足度は七七%であった。」医療への株式会社参入を目論む一部の者はこれを掲げて、世界一の評価を無視し、米国追随が良いとしている。

 両国の差の最大理由は、日本は公的医療保険がほとんどであるのに、米国は民間保険が主体であることである。米国では、高額保険で高度な医療や高額な薬品を受けるか、低額保険で医療に多大な制限を受けるかを選択せざるをえない。つまり、その人の甲斐性(かいしょう)次第ということになり、個人として納得せざるを得ないのである。

 日本の医療の不安・不満の背景に、相次ぐ医療事故とその後の対応がある。信頼性向上は「説明責任」と「透明性の確保」に尽きる。医療者すべてが高まいな精神で取り組んでいるとは言わない。ただ一部の医療、人格的に劣る医療者への批難が医療界全体へと置き換えられて報道される。その代表が医師会であり、医師会を単なる圧力団体、抵抗勢力とイコールにして国民を誤解へと誘導しているように見える。

 医師会は学校医、保育所・幼稚園医活動、乳ガン・乳幼児等の各種検診事業、災害救護活動、予防接種、医学講演会開催、母子・乳幼児保健・子育て支援事業、看護学校、居宅介護支援、在宅支援、休日診療・急患医療センターの救急医療事業などにも参加している。

 破綻状態とされる米国医療体制の立て直しの使命を帯びたヒラリー女史は、日本の医療体制を理想像とした。しかし、日本体制の導入を諦めた理由の一つは、日本の医療人の過労働ともいえる労働状態、特にボランティアともいえる労働範囲の多さに直面したことである。医師会は各種活動をポランティアとして使命感を持ち行っている。マスコミは女史とは異なり、医師会の義務活動として当然視しているのだろうか。

 医療者と患者の疾病に対する共闘関係構築のため、「患者のための医療」を実現させる必要がある。医療が年々高度複雑化するなかで、医療者には日々の研さん努力のほか、より高い倫理感も要求される。知性と徳性を求め、かつ自浄能力を発揮するためにも、圧力団体でなく、専門的職能集団としての医師会の存在価値をマスコミは理解してほしい。


(松山市医師会理事)