マスコミ時評
〜愛媛新聞メディアのページ(2004年2月16日)より転載〜

ワクチン不足と医療費(新野 正治)
予防接種報道に疑問

毎年10月中旬になると医療機関でインフルエンザの予防接種が始まる。特に今冬は新型肺炎が心配され、厚生労働省は予防接種を勧奨し、各報道も予防接種を勧める論調であった。また、使用されるインフルエンザワクチンも、昨シーズンの使用量の1.4倍が供給されることが確認され、量的には問題ないと思われていた。しかし、当初の予想を上回る接種希望者が殺到し、12月上旬には、全国的にワクチン不足が指摘されるようになった。

このことについて1月になり「副作用情報収集と救済制度の周知が足らず」と報道された(1月11日共同)。

 これによると接種の過熱を伝えつつ、副作用や接種対象外接種、情報収集窓口の未整備、救済機構の知名度不足など、当初より分かり切っていたことを今更のように伝えている。

 なぜワクチンが足りなくなったのかはSARSと、それに伴う在庫不足で片付け、それ以上の原因究明をしていない。また完全ではないが、毎年着実に有効率が増し、副作用も減り、救済機構を知らない接種医などまず存在しないことなどは、接種率が年々増加していることが証明している。

 量的不足であることを質的な問題に振り替えている。当初は勧めていながら、いったん接種が過熱すると退いてしまう「逃げを打つ報道」ととらえられても仕方ないと思う。

 インフルエンザの予防接種に関して毎年出てくるテーマに「医療機関によって接種の値段が違うのはなぜか」がある。確かに今シーズンはのことがあり、関心が高かったためもあるが、このように毎年でてくるといささか食傷気味である。

 簡単に言えば予防接種は、厚労省による薬価収載いわゆる公定価格がなく、保険適応もないため原則的に全額自己負担になる。価格をそろえれば混乱はないが、医師会などが料金を指定すると独占禁止法違反の疑いを持たれてしまう。

 現に、三重県四日市市医師会が、本年度のインフルエンザ予防接種で価格の下限を指定する文書を各医療機関に流し、公正取引委員会から独占禁止法違反の疑いを指摘された。

 各医療機関において、それぞれの根拠(納入価格や注射器代などを含む手技料、接種可否のための診察料など)で値段設定をしているため条件が異なり、同じ料金にならない。

 報道する側が、読者にとって興味ある身近な問題として取り上げるなら、せめて原因となる接種料金の構成や薬価の構造、価格を統一することは法的に難しいことを読者が最低限理解できるような記事にするべきではないかと考える。

(松山市医師会理事)